第7回:岩本亨先生インタビュー(前編)

はじめまして、中小企業政策研究会会員の松本・水島です。
中小企業政策研究会(通称:政策研)のWEBチーム編集事務局がお届けする2016年受験生応援ブログ、今回は『診断士資格の魅力』をお届けする企画です。

第7回目の今回は中小企業診断士1年目の松本・水島による政策研の統括幹事である岩本亨(いわもととおる)へのインタビューを通じて、中小企業診断士の魅力、政策研の魅力をお届けします。


事業再生の現場で活躍する中小企業診断士

iwa_interveiw01―現在のお仕事について教えてください。
独立してやっていますが、CRC(企業再生・承継コンサルタント協同組合)の仕事が9割くらいで、個人の仕事が1割くらいです。

―CRCはどういう団体なんですか?
CRCは、企業再建・承継コンサルタント協同組合が正式名称で、2001年11月に設立されました。「中小企業に特化して、事業再生の支援をする」ことを目的に設立された組合です。もともとCRCの代表理事である真部が株式会社リクルートで住宅専門の週刊誌の出版に関わっていたのですが、広告だけでは飽き足らず、不動産の売買業に関わるようになり、やがて、資産家向けのコンサルタントとして独立しました。その後、1990年代に入ってバブルが弾けましたが、資産家は企業を持っていることも多いので、経営状況が悪くなった会社の面倒を見て欲しいという依頼や、保有不動産を活用して資金調達できないか?等の相談ががどんどん来たんです。それで、再生支援の相談に対応するために設立されたのがCRCです。資産家向けのコンサルタントをしていた時も、自力でできることは限られているので、ネットワークを活かして仕事をしていましたが、同じように再生の専門家をネットワーク化して対応しようとはじめました。

―事業再生では、どういうことをするのでしょうか?
特に金融機関が考える事業再生は、債務免除や借入金を圧縮するなどして、B/S(貸借対照表)を軽くすることを主として検討する傾向があると思います。もちろんそこも大切だけれども、B/Sをよくしたところで、P/Lで稼ぐ力が回復していないといくらよくなっていてもまた赤字になって、B/Sも元の悪い状態に戻ってしまうんですね。また、大企業のように民事再生法や会社更生法などの法的整理を適用することが難しい。法的整理を適用してもよいのだけれども、その会社が他社に比べて際立って差別化できる何かを持っていないと、過半数の債権者の同意が得にくい。つまり再生の条件が揃わず破たんしてしまうのです。中小企業の再生にはP/L改善が不可欠。それを自助努力で実現させなければ中小企業の再生は実現できません。ということで経営改善型の再生が重要なのです。

―事業再生の難しさはどういうところにあるのでしょうか?
まず、現状を調査分析(「デューデリジェンス」と言います)、把握し問題を抽出したうえで、それをどういう風に解決していきますかという課題設定を行います。色々具体策を検討しながら、再生計画をつくります。お金を貸している全金融機関が「この計画をきちんと達成していくのであれば、支援を継続します」と計画に同意してくれると、社長が安心してしまい、計画の実行が始まらないことが頻繁にあります。笑い話のようですが、神棚に再生計画をあげて、毎朝拝んでいるとかね。計画を立てることが目的ではなくて、実行することが目的なのに、それができないのです。

―どうしたらよいのでしょうか?
一つの策として、「一緒になってつくってきた計画なので、一緒になってやりますか」と一般的なモニタリング期間である3年間、CRCから経営幹部人材を1、2名をその企業に出向させる(ターンアラウンドマネージャー:TAMと言います)ような取り組みを2005年から行っています。TAMは計画実行のためのアクションプランを月単位で詳細に作り、1ヶ月に1回は経営者、出向しているTAM、メイン金融機関の担当者、CRCのプロジェクトマネージャーが、集まってアクションプランと数値計画の進捗状況、資金繰りを共有します。進捗が遅れているものがあれば原因を明確にして対策を決めます。このように、1ヶ月に1回のコミュニケーションを積み重ねながらPDCAを回し、取り組んでいく。そうして3年間きっちり継続するとほとんどの企業が非常によくなります。

―きっちりできない、続かないケースもあるのでしょうか?
続かないケースもあります。中小企業の経営者は一国一城の主ですから、「俺の会社だ」という気持ちが強いです。こちらから出向するTAMはやることは決まっているけれど、落下傘部隊なので、いきなり現場に入っていくことになります。まずは、信頼関係を構築しないと難しい。従業員の信頼を得ることができたとしても、社長の信頼を得ることができないと続きません。信頼関係が築けない場合は、1年たった頃に「やり方はわかったからもういいよ」、と契約の途中解除を言われることが起こってしまいます。計画の実行支援を1年で止めると、7、8割の企業は改善がとん挫し元に戻ってしまいます。ですから、信頼関係構築は非常に重要です。

「心暖士」として事業再生の現場で生きる

―事業再生の仕事に関わるようになったきっかけを教えてください。
2004年に中小企業診断士登録して、すぐに独立しました。最初から再生の仕事をしていたわけではなくて、とにかく食べていかなければいけないので、講師をしたり、税理士事務所のお手伝いをしたり、経営相談員をしたり、色々なことをやっていました。通常、独立する人は生活設計を立ててから独立するじゃないですか。私の場合、そこを考えずに会社を辞めてしまったので、色々なことをやってジタバタドタバタしていました。CRCは、事業再生の講座(ターンアラウンドマネージャー養成講座)を受講したことがご縁で、2006年に会員になりました。前職での営業経験を活かして、CRCの営業をやってほしいと言われたことが現在の仕事につながるきっかけです。

―営業とは具体的にはどういうことでしょうか?
金融機関の本部の再生支援部署を訪問して、色々情報交換をしながら、案件を受託してほしいと言われました。はじめは営業ではなく、営業支援をやりたいのだ、という話をしたところ、「お前な、中小企業診断士と言うのは、ごまんとおるんだ。うちの会員にもたくさんおるし、しかも、独立したばかりで、コンサルタントとしての実績がない。実績がない中で誰がお前を営業支援のコンサルタントとして雇おうとするんだ。全く魅力がない。リクルートで営業として活躍していたことは魅力だ。」と返されました(笑)。

―金融機関に対して営業をしてみていかがでしたか?
それまでもCRCには、営業担当者がいたようなのですが、何も営業記録が蓄積されていない。とりあえず金融機関の本部に電話をしてアポを取っていくところからでした。ただ、1年半くらいは全く案件を取れずにいました。こちらは経験不足もあって金融機関の支援担当者が話す内容も何だかよくわからないですし、なかなか話がかみ合わない。色々情報交換をしながら、信頼関係を積み上げていく中で、ポツポツ案件が出てくるようになりました。

―独立したいと考えている人にアドバイスをお願いします。
私が「独立したい」と相談を受けると、相当大変な経験もしてきたので、まずは「止めた方がよいよ」と1回は言います。また相談に来ると、「本当にそう思うの?」と念押しした上で「では、やってみたら」と言いますが、生活設計を考えるようにアドバイスしています。でも、本気で取り組むなら、誰かが必ず助けてくれます。

―岩本さんは「人柄・意欲・実績がある人にお仕事をお願いしたい」とおっしゃっていますが、その点について聞かせてください。
自分自身もそうありたいと思っています。その中でも人柄が一番重要だと思っています。学生時代に勉強ができても嫌な奴っていませんでしたか?
仕事はできる人にやってもらえばよいでしょうと思いがちだけれども、お客さんがいての仕事だからコミュニケーションをきちんと取ってもらわなきゃいかん。いくらよい提案であっても、お客さんが気持ちよく「お願いします」と思ってくれないと進みません。逆に「このやろう」と思われるとどうしようもないじゃないですか。自分が一番だと見下す感じで接しても全くうまくいかない。

―中小企業診断士としてどうあるのが理想だとお考えですか?
自分一人でできることを見極めることです。専門を極めて一人で仕事することも大事ですが、自分一人ですべて対応することが危険なことも多々あります。そういうケースでは専門性を持ち寄ってチームで仕事をする方が合理的で質の高いサービスができます。きちんと自分のチームのなかでもお客様ともコミュニケーションできて、お客様のニーズを反映できること。チームのなかでこうあるべきだというところを理解したうえで、自分で道筋をつけて提案できる人、そしてそれをフォローしていける人ですね。会社員として仕事ができる人とあまり変わらない気がします。その環境のなかに飛び込みさえしてしまえば、あとはジタバタしていればなんとかなるということが僕の実感です。ですから、覚悟さえあればできますよ。ただし診断士業界では「独立することが偉い」と思っている人が居るように感じますが、それは間違っています。組織人としての方が高い成果を上げる人もいます。人それぞれですので、自分がどうしたいのかを冷静に検討されることをお勧めします。

―中小企業診断士の知識は広く浅く、仕事のイメージがつかみにくいのですが、その点はどうお考えですか?
それは、いまだにわからない(笑)。経営についての知識を広く浅く理解している分、企業の全体を見てアドバイスすることが診断士の役割だと思っています。例えば中小企業のオーナー社長が顧問税理士に相続について相談した場合、株を分割して、税金がかからないようにアドバイスをされることがあります。でも、それは節税を考えた部分最適です。後継者が経営する際に3分の2以上の株を持っていないと迅速な経営判断が難しくなります。つまり経営という観点では顧問税理士の提案は全体最適ではないのです。分野ごとに専門家はそれぞれいますから、お願いをすればその範囲内ではきちんと仕事をしてくれます。でも、企業全体を見て差配できるのは中小企業診断士だと思います。

―中小企業診断士の仕事のやりがいを教えてください
最終的に企業がよくなって、僕らがいなくてもやっていけそうな感じになると「ああ、よかったな」と思いますね。1つの企業が生き残って、危機を脱して、さらに成長していく可能性ができたことは、すごく嬉しいことです。そこに関われたことは幸せですよね。個人メールのユーザー名を「心暖士 岩本亨」としていますが、中小企業の支援を通じて、経営改善を実現していくのに、経営者の冷めきった心を暖かくしないと進まないですよね?

(次回、後篇へ続きます。)


iwamoto_prof_s<岩本亨 略歴>中小企業診断士・ターンアラウンドマネージャー
1962年島根県生まれ、名古屋大学文学部卒業。19年間の株式会社リクルート勤務を経て、2004年中小企業診断士登録と同時に独立開業。自治体並びに民間企業向け研修講師、経営コンサルタントとしても活躍。資格の学校TAC講師。千代田区経営相談員。文京区「若手商人塾」チームリーダー。独立行政法人中小企業基盤整備機構販路開拓コーディネーター等にも従事経験あり。 2006年より企業再建・承継コンサルタント協同組合(CRC)の会員となり、中小企業の再生・承継支援に取り組んでいる。プロジェクトマネージャーとして約60社の支援実績がある。現在、CRC執行役員 推進局本部部長 東海・中国支部長。2006年合同会社産業経営研究所を設立し代表社員に就任。中小企業政策研究会の統括幹事及び分科会「岩本組」リーダー。