活動報告:2023年4月度定例会

2023年4月の定例会は、「FAT式プロスポーツの楽しみ方―Jリーグクラブの財務諸表を読み解いてみよう―」とのタイトルで、稲垣秀行会員を中心に、FATのメンバーである宇都啓介会員、梅野裕介会員、駒坂昇一会員、関戸雅之会員、武宏之会員、中村いづみ会員に発表をしていただきました。

当日は、Jリーグチームの決算情報を題材にして財務・会計の知識・理解を深めるとともに、プロスポーツをビジネスとしての側面から検討してみるというコンセプトのもと、Jリーグクラブのビジネスモデルの解説やJリーグ各クラブの決算情報の分析をしていただきました。その後、「FATユナイテッド飛鳥」という架空のJリーグクラブの事例を設定しクラブ経営の模擬診断のグループワークを行いました。

1 Jリーグクラブのビジネスモデル

Jリーグクラブのビジネスモデルについて、Jリーグの開幕時期、クラブ数・所在地、全Jリーグクラブの営業収益の合計額、営業収益の構造、監督・選手の人件費(チーム人件費)の営業収益に占める割合、営業収益・営業費用の構造、コロナ禍が入場者数に与えた影響などをクイズ形式で解説していただきました。

2 Jリーグクラブの財務諸表分析

複数のJリーグクラブの決算情報をもとに、次のような観点から財務分析を行いました。

① クラブの収益性

各クラブの営業収益の科目や構成比の分析、コロナ禍の影響の分析を通じて、各クラブの運営の特徴を解説していただきました。

一口にJリーグクラブといっても、規模やビジネスモデルにはそれぞれ特徴があり、全国的に有名な大規模クラブで、収益のうち入場料収入の占める割合が大きく、コロナ禍による入場料収入の減少の影響が大きなところもあれば、中小規模のクラブで、コロナ禍による入場料収入の減少からの回復が早いところや、現在ではコロナ禍前を超える入場料収入をあげているところ、物販収入を増加させることでコロナ禍の影響を抑えたところがあることなどを解説していただきました。

② クラブの財務的な効率性

クラブによってチーム人件費の営業収益に対する割合には差があるものの、チーム人件費が高額なチームほど順位が良い傾向にあることや各チームが勝ち点1を獲得するためにどの程度のチーム人件費をかけているかの分析を通して、各クラブの財務的な効率性について解説していただきました。

 

③ クラブの財務的な安全性

Jリーグでは、債務超過又は3期連続赤字に該当するとクラブライセンスが剥奪されるという基準(但し、コロナ禍での特例措置がありました)があり、財務的な安全性が要求されています。

その指標として、自己資本比率をもとに、コロナ禍の影響などの分析内容を解説していただきました。

3 架空のクラブ「FATユナイテッド飛鳥」の経営についての模擬診断

引退したJリーガーが、現役時代には達成できなかった日本一を、クラブオーナーとして実現したいという夢を掲げて奈良県で立ち上げ、現在J3に所属する架空のクラブ「FATユナイテッド飛鳥」の模擬経営診断を行いました。

①競技力向上の施策

「FATユナイテッド飛鳥」の財務状況を前提として、競技力を向上させるための助言内容を検討しました。

会場からは長期的な視点からアカデミーでの選手育成をするべきとの意見や「FATユナイテッド飛鳥」はチーム人件費の営業収益に対する割合が低いことから実力のある選手を獲得するといった意見が寄せられました。

発表者からは、「FATユナイテッド飛鳥」がJ3加盟直後で財務状態が強固とはいえない状況で、3期連続赤字・債務超過によってライセンスを剥奪されるリスクを回避するという観点からは、実力のある選手の獲得ではなく、トップチームやアカデミーの選手の練習環境の改善やアカデミーや地元の高校・大学から将来の選手をスカウトによって強化を図るという方向性が示されました。
②営業収益向上の施策

競技力を強化するためには財務基盤の強化が必須であることから、「FATユナイテッド飛鳥」の現状の営業収益を前提に、どのような営業収益向上の施策をとるべきかを検討しました。

会場からは、主としてスポンサー収入を増やすための営業の強化やアカデミー関連収入の増加に力を入れ、波及的に入場料収入の増加も期待できるのではないかとの意見が寄せられました。

発表者からは、「FATユナイテッド飛鳥」が他チームと比較して入場料収入が低いことから、入場料収入を増やすことで財務の安定化を図ることが必要であるとの方向性が示されました。その方法として、単に観戦するだけではなく付加価値を付けたチケットの販売などをするなどの施策を解説していただきました。

 ③事業計画の策定

現在J3に所属する「FATユナイテッド飛鳥」がJ2に昇格するための事業計画を検討しました。事業計画策定の際、クラブオーナー、選手・監督、クラブを支える地元企業、地域住民や行政、サポーターなど様々なステークホルダーの意見にも配慮しつつ、競技力強化を優先した計画、ファンマーケティングを優先した計画のいずれを選択すべきかを検討しました。

会場からは、ファンマーケティングを優先すべきとの意見が寄せられました。発表者の解説としても、実力のある選手の獲得などに資金を投下し競技力強化を優先した場合、チームの成績が向上すればスポンサー収入・入場料収入の増加が期待できるものの、成績が向上する確実性はないためリスクがあるとの指摘がありました。

これに対して、ファンやサポーターの拡大に力を入れ財務的安定を図りつつ、トレーニング施設やアカデミー運営に資金を投入し地道なチーム力向上によってJ2昇格を目指す場合、財務的な安定は期待できるものの、競技力向上に時間がかかりJ2昇格達成の目途が立たない可能性があることを解説していただきました。クラブの運営は、財務的安定とチームの競技力向上の間でバランスを取りながら行う必要があることを解説していただきました。

 ④今後の事業活動の展開

「FATユナイテッド飛鳥」の「サッカーの感動や喜びで人々に活力を生み出しサッカーが日常にある文化を育み、未来世代に向けて希望に満ちた地域社会づくりに貢献する」という経営理念を体現するための今後の事業展開について検討しました。

会場からは、地域の子ども達にサッカーを根付かせるための学校への出前サッカー教室の開催や地元商店街のイベントとの連携などの案が示されました。

発表者からは、Jリーグクラブが、試合以外にも地域での活動を通じて、ファン・サポーター、自治体・地域住民、地元企業などに様々な価値を提供することができ、地域活性化の起点となり得る存在であることを解説していただきました。また、スポーツビジネスが社会にどのような効果を与えたかを測定する指標として「社会的投資収益率(SROI)」を紹介していただきました。

4 まとめ

現在、日本各地に、サッカーに限らず、野球、バスケットボールなど様々なスポーツクラブが設立されており、スポーツクラブの存在は、地域活性化の起点となり得る重要な存在であることを解説していただきました。

地域活性化は中小企業診断士にとって重要なテーマであるところ、稲垣会員をはじめ発表していただいたFATのメンバーの皆様には、Jリーグクラブを具体的な題材として、スポーツクラブが地域活性化にとって有益な存在であることを分かりやすく解説していただきました。

稲垣会員、宇都会員、梅野会員、駒坂会員、関戸会員、武会員、中村会員ありがとうございました。