活動報告:2022年12月度定例会

2022年12月度の定例会は、『中小企業診断士によるM&Aのリアルケース〜診断士が買い手となって実行したネイルサロンのM&Aとその後』と題し、企画提案者は須々田智昭会員、講師は株式会社ステラコンサルティング代表取締役木下綾子様にご講演いただきました。
Zoomによるオンライン開催で大変盛況となりました。

木下様の自己紹介は以下の通りになります。


発表については以下のアジェンダに沿って行なっていただきました。

1.スモールM&Aが注目される背景

まずM&Aの市況や背景などを述べられました。
現状として、経営者の高齢化が進み休廃業・解散件数が増加しており、それに伴いM&Aの件数も右肩上りに増加しております。


またM&Aの買いニーズは依然として高かったが、コロナ禍前後で売りニーズの企業が増加しております。中小企業の約7割が赤字であり、今後赤字事業・赤字会社のM&Aが増加することが予想され、スモールM&Aが注目される背景として述べられました。

2.中小企業診断士の課題

次に中小企業診断士の仕事の特徴として労働集約的な働き方・資格者本人でないと対応できない仕事が多い・独占業務がないことが挙げられます。
そのため経営革新・事業再構築の必要性があり、M &Aで事業買収を行うことで第2の事業の柱を構築することは非常にメリットが大きいことを述べられました。
メリットは以下の3点です。
①自身が買い手としてM &Aを実際に行うことで、M &Aアドバイザーとしてのスキルが得られる。
②譲り受けた事業のノウハウが得られるため、診断士としてのコンサルスキルの向上。
③第2の事業の柱を作ることができる。

3.譲受事業の概要

譲受企業の概要は、銀座のマンションの1室に店舗を構える従業員4名の小規模ネイルサロンでした。2代目の経営者が事業を引き継ぎ、約1年間運営を行っておりましたが営業赤字に陥っておりました。
木下様はこのネイルサロンは営業赤字ではあるが、改善のビジョンが見え、顧客名簿を活かして改善が図れると判断しM&Aに踏み切られました。

4.具体的な施策

買収後に行った実際の具体的な施策についてお話いただきました。
会社・スタッフ・お客様の3者の相関図を元に各施策を展開し改善を図っていきました。

①    コンセプト
サロンのコンセプトを設定し従業員に周知することで、会社の方向性を従業員に浸透させました。またペルソナも設定することで、会社がどのような顧客をターゲットにどのようなサービスを提供するのかというサロンのブランドイメージの構築を実施しました。

②    マーケティング施策
マーケティング施策として以下のことを実践しました。

a.      店舗の内装の変更
ブランドコンセプトに合わせて清潔感のある内装へと改装を実施。

b.      価格の改訂
 設定したペルソナに基づき高価格帯の顧客を獲得すべく値上げの実施。この際従業員の施術時間あたりの単価も考慮して値段設定を実施。

c.     プロモーションの最適化
 支払広告費におけるリターンを分析し、最適な広告費へのダウンサイジングを実施。また無料で行えるGoogleマイビジネスやInstagram等も利用。

③ ES向上

ESの向上にむけストレングスファインダーを行い従業員の特性をお互いが認識をして、相互理解を深める取り組みを実施しました。また特性を理解した上でマネジメント層へのコーチングも実施しました。
働き方の改善にも努め、勤務形態を早出・遅出の2形態のシフト制へ変更することで、従業員が早く帰ることのできる日を作りESを高めていきました。
また組織の共通目的を言語化してチームの一体感を高めることで、愚痴や言い争いが減少し、職場をよくするための意見や互いがフォローする場面が増えたようです。

④ CS向上

お客さまのCS向上として、サロンの雰囲気が口コミに大きく影響することを示されました。そのため先程のES向上の施策がCS向上につながっていることが分かります。

5.まとめ&今後の展望

まとめとして今回の買収を行ったことで以下の経験が得られたと述べられました。

①支援者としての視点
中小企業診断士として買い手の体験をしたことで買収後の再生の成功率が上がり、M&Aアドバイザーとしても支援者として推進を行うことができ雇用と地域経済を守ることができる。

②経営者としての視点
M&Aアドバイザーとしてのスキルが得られ、譲受事業のノウハウが獲得できスキルアップでき、第2の柱を作ることができる。

今後の展望としてネイルサロン事業はコロナ禍も収まってきておりコロナ前水準まで回復しており、2店舗目を視野に入れ、更なる体制構築を図る。ネイリストのセカンドキャリアを見据えた会社設計にすることで質の高い人材の獲得に努める。
コンサル事業は自分だけの体制からの脱却を目指し、美容サロン経営のノウハウを活用し美容サロン向けのコンサルを提案していく。
 
講演の内容は以上になります。今回は中小企業診断士が実際にM&Aの買い手となってその後の運営をどのように行ったかという内容となっておりました。
中小企業診断士としてM&Aに携わる方もいらっしゃる中で実務に重点をおいた非常に参考になる内容となっておりました。
木下様、貴重なご講演をいただき、どうもありがとうございました。