活動報告:2020年2月度定例会

2月度定例会は、『中小企業の売上に「写真」はいかに貢献できるのか? −写真の有効活用により売上向上した事例を通じて−』と題し、石田紀彦会員よりご講演いただきました。

石田会員は、プロカメラマン×中小企業診断士という独自の領域を確立し活躍されています。前半は、写真の役割や撮影技法など、後半の事例紹介をより理解するための基礎知識をご説明いただきました。後半は、写真の活用を通して売上がⅤ字回復を果たした支援事例をご紹介いただきました。

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■写真の役割
写真には、「直接的価値」のある写真と、「間接的価値」のある写真があることをご説明いただきました。「直接的価値」のある写真は、七五三の写真のようにもらう事自体が嬉しく価値のある写真。「間接的価値」のある写真は、レストランのメニュー写真のように、写真の効果により売上がアップして、はじめて価値が認められる写真とのことです。そして今回話題にするのは「間接的価値」のある写真と位置付けられました。
また、売上向上に影響を与える写真の機能として、①目を引くことが目的の「ブランディング写真」、②商品の情報を正しく伝えることが目的の「商品写真」、③商品の使い方を教えることが目的の「説明写真」、があることをご説明いただきました。
さらに、消費者購買モデル(AIDMA)にあてはめ、中小企業では目的に合致しない写真を使用してしまっている事例ことが多いことをご説明いただきました。例として、購買行動のスタートである「注意(Attention)」においては、商品写真や説明写真でなく、消費者の感情を動かす「ブランディング写真」を用いることが肝要であるとのお話をいただきました。

■撮影技法
「プロっぽく」みえる写真を切り口に、商品の付加価値を⾼める撮影技法を紹介いただきました。「プロっぽく」みえる写真には、「ボケ」、「望遠」、「光の方向」、「光の質」という4つの要素があり、このうち、お金をかけなくても解決できる「光の方向」、「光の質」について、具体的な写真を示しながら、ご説明いただきました。
「光の方向」については、立体感を感じることが美味しそうに見えるポイントとのことです。インターネットアンケートにおいて、半逆光がいちばん美味しそうに見え、次にサイド光、逆光と続き、最下位が順光という結果があり、これは影が立体感を演出していることに起因するという話をいただきました。また、「光の質」については、透過光やバウンスライトを使い分けることで、柔らかい光を演出ができることをご説明いただきました。さらに、100円ショップで買ったコップを光の演出で1300円超に見せる実験結果も紹介いただきました。

■顧客を知る
写真にマーケティングの発想を取り入れた、料理写真とターゲット毎の感じ方のクロス分析結果から、年代ごとに「美味しそう!」と感じる写真の傾向が異なることをご紹介いただきました。
「光の方向」別に調査すると年代によって美味しそうを感じる写真が異なる一方で、「構図の方向」別では、年齢、性別問わず「斜め45度」が最も支持が高いとご説明いただきました。これは自らが食べるシチュエーションを想像しやすいためと考えられているそうです。また、「スタイリング」別では、食べるシチュエーションが想像しやすいナイフ・フォークを加えた写真が最も支持を集めたという話をいただきました。さらに、色温度、マンセル色相環図を紹介いただきながら、どのような色が美味しそうに見えるのか、蛍光灯や白熱電球といった光源選びの重要性についてご説明いただきました。

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■支援事例

写真を有効活用した事例として、政策研の人的ネットワークで繋がり、宅配専門天丼フランチャイズ店へのメニュー写真の改善として始まった一連の支援をご紹介いただきました。

支援依頼を受けた当初は、広告チラシのメニュー写真を改善するだけでも売上アップが出来ると確信していたそうです。ところが、支援直前にフランチャイザーからの指示で配達料の徴収を始めてしまったことで顧客に敬遠され、売上がダウンした局面からのスタートになってしまったエピソードをお話いただきました。

先ず行った環境分析での問題点・解決策、気付きなどをご説明いただきました。

  • 原価管理がされてなく商品別の売上・粗利分析ができなかったが、原価管理を行うことで「狙った商品で狙った結果を出せる」ようになった。
  • RFM分析では、優良顧客を見つけるためのものではなく、優良顧客に引き上げるべきターゲットを見つけるために使える分析手法だという石田会員自身の気づきがあった。そこで、上得意客をターゲットにするのではなく、購入頻度の低い顧客や、最近購入していない流出客をターゲットにしたクーポンなどの特典を設定した。
  • アンケート調査からは、天丼の広告写真として最適な「光の方向」「スタイリング」「色温度」等の情報が得られた。
  • GIS分析という手法を用い、ターゲットを絞ってポスティングを実施したが、思ったような効果が得られた施策と効果が得られなかった施策があった。

環境分析を踏まえ、広告チラシやホームページでの訴求内容を「強み」と「顧客に対する便益」に変更した結果、売上が回復していったとのことです。

チラシやホームページに、店長の工夫・想いといった強みを記載することで、売り物を「天丼」から「店長」に変える。メニューという「事実」のみの表記だった広告に自宅で油の処理がいらなくなる等の「便益」を書き加える。これらの変更が顧客に与える感情を変えた。とご説明いただきました。

また、今日一番言いたかったこととして『日本人は努力や工夫を隠す傾向にある。または、本人がそれに気づいていないだけで「強み」は必ずある。中小企業支援では、強みを聞き出すことが重要!』という言葉をいただきました。

冒頭、写真の役割としてAIDMAを例に取り説明いただいた『すべての購買行動は「感情」からスタートしている』に立ち返り、今回の支援では、『お客様の「感情」を動かしたこと』が最大の成功要因であると締め括られました。

■質疑応答

新入会員から実務補習に直結した質問が飛び出すなど、活発な質疑応答が行われました。また、回答の端々に、石田会員の写真に込めた熱い想いを感じる、有意義な質疑応答となりました。聴講した会員との間で交わされた質疑応答の一部を紹介します。

(質問)原価管理を始めるにあたって、工夫した点はあったか?

(回答)具体的に工夫というものではないが、非常に簡素なExcelシートを手作りし、提供した。それが滑走路となり、店長のやる気をくすぐったことが、成功要因だと考えている。

(質問)実務補習の診断先が飲食業である。写真という観点で気をつけるべきポイントを知りたい。

(回答)写真には、引き算と足し算という概念がある。引き算は、ピンポイントの写真で、足し算は、全体を包含した写真である。スマホが生活の一部となっている現代においては、足し算の写真は内容が小さくて見えず、訴求力が弱いため見過ごされる。今は引き算の時代であり、被写体を絞り込んで大きく撮ることがポイントである。

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「写真」という現代には欠かせない広告素材を題材に、実体験を元にした講演、質疑への回答を行っていただき非常に有意義な月例会となりました。最後は、石田会員に向けての大きな拍手をもって閉会しました。

以上