2018年8月度定例会 活動報告

2018年8月度定例会 活動報告

 

2018年8月度の定例会についてご報告いたします。

 8月度定例会は、小島慶亮会員の企画として『徹底研究!地域支援を行う診断士のあるべき姿とは?~ゴーストタウンだった熱海の街を復活させた事例から探る!~』と題し、地元熱海で地域再生支援をされている市来広一郎様(株式会社machimori代表取締役。NPO法人atamista代表理事、(一社)熱海市観光協会理事。(一社)ジャパン・オンパク理事。(一社)日本まちやど協会理事)にご講演いただきました。

 市来さんは、地元熱海で「100年後も豊かな暮らしができるまちをつくる」をミッションに約10年前から地域に根差した地域再生支援を行ってきました。講演では、市来さんが生まれ育った熱海の地域再生支援にどのように取り組んできたか、今後への想いなどについて、お話しいただきました。

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■寂れた熱海の再生への第一歩 ~ 地元住民の満足度を高める

 市来さんは、観光客も減り、廃墟のようになってしまった地元熱海をどうにかしたいと、大学卒業後勤めたコンサル会社を4年で辞め、2007年に熱海にUターンされました。

 熱海に戻りショックだったのは、観光客の満足度がとてもとても低かったこと、そして、観光客だけでなく、地元の人たちの満足度が低く、地元には「何もない」とネガティブなイメージを持っている人が多いということだったそうです。個人客の増加に対応するには、サービス業の従事者だけでなく、地元の人誰もが観光客に対応できることが必要であり、まずは地元の満足度を高めるため、地元の人が地元を楽しむツアー「オンたま(熱海温泉玉手箱)」として、様々なツアーを2009年から約3年間実施しました。

 地元の商売している人たちにガイドをしてもらうなど、地元の方を巻き込み観光客とスペシャルな体験を共有してもらうべく、街歩きガイドツアーを通じて昭和レトロの雰囲気の街並みなど、地元の価値に気づいてもらいました。今まで資源と思われていなかったところの再発見に繋がり、地元メディアでも発信され、口コミも広がり、“熱海のイメージが変わった”という地元住民の声も増えました。小さな種まきを地道に続けた結果、街の空気も変わってきたそうです。

 このような取組みは市来さんが立ち上げたNPO法人atamistaだけではできないため、熱海市、熱海市観光協会と実行委員会を作り、それぞれの強みを活かし連携して推進されました。

 

■まちづくりの税金依存からの脱却 ~ 持続可能なしくみ・稼げるまちづくりへ 

 オンたまツアーで街の雰囲気は変わってきましたが、街に空き物件が多い状況を変えないと街は再生しないと感じ、次の段階として、街に根付く人を増やしていこうと、株式会社machimoriを設立し、空き店舗を自ら再生して運営する事業を開始。小さい成功事例を作るため“熱海銀座”にエリアを絞り、「クリエイティブな30代に選ばれる街をつくる」をビジョンに、様々なリノベーションを進めました。

 地元の不動産オーナーの壁は厚かったそうですが、志のある不動産オーナーと出会い、安い家賃で借りられることになり、2012年に“CAFÉ RoCA”(Renovation of Central Atamiの頭文字)をオープン。その後、2013年11月から隔月で、“海辺のあたみマルシェ”を開催。また、10年間空き店舗だった場所をリノベーションし、ゲストハウスMARUYAをオープン。地元で出資者も現れ、MARUYA周辺の温泉や飲食店、ひもの屋さんと連携したおもてなしなど、多くの人との関わりを意識して作り出しています。さらに、naedoco(コワーキングスペース)もスタート。今では、熱海銀座”の空き店舗は残り2店舗まで減ってきています。

 

 街づくりには、不動産オーナーの協力、戦略的都市ビジョン、人材育成が欠かせないとのことです。特に、起業したい人、移住したい人が店舗や住居を借りやすくする、それには、不動産オーナーと、ビジネスオーナー・生活者をつなぐ存在“家守”が必要で、そういう人たちが増えていくとよいこと、㈱machimoriはその役割を担っていきたいと言われました。

 こうした取組みがつながって、熱海に移住したいと思う人たち、Uターン者、熱海で起業する人、二拠点居住者などが増え、特に若者でにぎわう街に変わってきているそうです。

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 市来さんは、「熱海ほど観光と暮らしが混ざり合った街はほかにない、観光と定住の間の多様な暮らし方をつくっていきたい。」、最近、熱海銀座のお祭りに参加する人が増えてきたそうで、「地元の人もよそ者も境目がない、新しい血が入ってくることで、経済的にも再生しながら、混ざり合いながら、地域に新しい文化、カルチャーができていくといい。」と、今後への想いを話されました。

 

■地域支援を行う診断士のあるべき姿とは?~講演を聞いての気づきの共有と質疑応答

 講演後、小島会員のファシリテートにより、4人毎グループになり、「地域支援を行う診断士のあるべき姿とは?」という切り口で、講演を聞いての気づき・感想を共有しました。その後、各グループで出た意見の発表と市来さんとの質疑応答が行われました。

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 質疑応答のなかで、市来さんから以下のメッセージをいただきました。

・地元を見つめ直して観光や街づくりを進めるには、国内外いろいろなところに行き、いろんな人たちに触れると、新しい視点を得られるのでよい。

・月に数回の支援・サポートというより、ボランティアや運営も含めて関わってもらえるとありがたい。

・地域再生の段階によって異なるが、はじめはリスクをとって一緒にやってくれる人が必要。コミットメントを求めている。

・漠然と街おこしと言うだけでは、事業として成立しない。地域を支援するとき、誰を支援するのかを明確にすることが大事だと思う。

 

「熱海を使って世界を変えたい、楽しく、豊かに、仕事も暮らしもしていける場所を熱海から作っていきたい。」という市来さんの熱い言葉の数々は、参加者の胸を熱くし、会場が拍手に包まれました。

 市来さんは、最近書籍「熱海の奇跡」を出版したこともあり、メディア露出や講演も増え、各地の地方再生・活性化に取り組んでいる人々から注目されています。そんなご多忙のなか、熱海行の最終電車の時間まで懇親会にもご参加いただきました。市来さんの強い想いとパワー、そして人柄に触れる機会となり、街おこしや地域活性化への関わり方など、活発な意見交換の場となりました。

 

参考:「熱海の奇跡」

 (https://www.amazon.co.jp/%E7%86%B1%E6%B5%B7%E3%81%AE%E5%A5%87%E8%B7%A1-%E5%B8%82%E6%9D%A5-%E5%BA%83%E4%B8%80%E9%83%8E/dp/4492503013)