活動報告:2026年10月度定例会

開催日 2026年10月14日(水)19:00〜21:00

テーマ 『自分の経験やノウハウで動くAI秘書を持つ ── 診断士のAI活用実践』

講師 眞本 崇之 会員

エグゼクティブサマリー

本報告は、独立して14年の診断士であり、元プログラマ・SEでもある眞本崇之氏による「自分の経験やノウハウで動くAI秘書を持つ ── 診断士のAI活用実践」の講演内容をまとめたものである。講演では、生成AIを「確率的に言葉や要素をつなぐ仕組み」と捉え、意図した回答を引き出すうえで重要となる「コンテキスト」の考え方と構成要素が解説された。加えて、面談報告書の作成・顧客カードの更新、毎朝のブリーフィングノート生成、Web情報の収集・整理といったAIエージェントの活用例が実演された。さらに、AI活用を初級・中級・上級に分けた導入ステップや、事務作業の削減によって生まれた時間を何に振り向けるか、スマイルカーブを踏まえて人間が担うべき役割について説明された。

主なポイント

1. 背景と課題認識・AI活用の基本原理

・営業活動と非営業活動の割合:Salesforce社の2022年の営業担当者調査(38カ国7,775人)によると、実際の営業活動時間は僅か28%であり、残り72%(見込み調査・優先順位付け18.5%、顧客情報の入力・管理17.6%、提案書作成9.4%、準備・計画9.0%等)は非営業活動に費やされている。診断士の業務も同様に事前準備や報告書作成・顧客管理等の事務作業が大半を占めており、この時間はAIが代替できる可能性がある。

・生成AIの仕組みと限界:生成AIは事前学習した膨大な文章から最も確率が高い言葉を1文字/1単語ずつ高速接続して生成している。正解を理解しているわけではないため、回答の揺らぎや事実と異なる「ハルシネーション」の発生は仕組み上避けられない。

・「ガチャ」の当たり確率を高める工夫:AIモデルの構造自体は変更できないため、ユーザー側が知りたい会社HPや面談記録などの固有情報を「コンテキスト」として渡すことで、狙い通りの回答(当たり)が出る確率を引き上げる。

・レストラン経営に例える4要素:品質を安定させる構造を「①シェフ(AIモデル:ChatGPT/Claude/Gemini等)」「②レシピ・器具(指示力・プロンプト・スキル)」「③材料・仕込み(自分だけの情報・コンテキスト)」「④整理されたキッチン(索引力:必要な情報をすぐ取り出せる環境)」に分解。主要モデル間の性能差(シェフの差)は小さく、実務成果の差は②〜④(特にコンテキストの蓄積と渡し方)から生まれる(AI活用はコンテキストが9割)。

2. コンテキストの9つの構成要素と効果

・コンテキストの定義:AIが回答を生成する際に参照する背景・文脈・固有情報。プロンプト、添付資料、会話履歴、設定ファイルなどが含まれる。

・3つの領域と9つのパーツ:

①動かし方(手足):プロンプト、スキル(定型作業の登録)、エージェント(目的遂行担当者)

②知っていること(脳):データ(事実・数値)、ナレッジ(自身の解釈・価値観・判断基準)、メモリ(役割・方針・作業ログ・感情・ゴール・現在地)

③振る舞い(心):設定ファイル(CLAUDE.md / AGENTS.md)、ルール、フック

・充実したコンテキストの効果:一般論ではない自分に最適化された回答の獲得、インプット指示の大幅簡略化(「報告書作って」の一言で完結)、モデル変更に左右されない運用環境の確立。

3. エージェントの役割

・チャット型とエージェント型の差異:チャット型は回答を返す「アドバイザー」であり、コピペやファイル配置等の最終作業は人間が行う。一方、エージェント型は目的達成に向けてファイル操作や更新、エラー対応まで自律的に完遂する「担当者」である。

・Claudeとエージェントの関係:メインエージェント(Claude Code, Codex, Antigravity等)がユーザーとの対話・進行管理(司令塔)を担い、タスクに応じて専門特化されたサブエージェントを呼び出して作業を委任・実行する構成。

4. AIエージェント実践デモ(3つの実務適用事例)

・事例①【専門家派遣・面談対応】:面談の音声文字起こし(Macのボイスメモ)を渡し「報告書作って」と指示するだけで、Wordテンプレートへの書き込み、顧客カード・Notion・面談履歴の更新、お礼・フォローアップメールの下書き作成までをAIが一貫して処理。人間は文字起こしを渡して起動し、仕上がりを確認・修正するのみ(報告書作成は従来約2時間かかっていたものが、10〜30分程度の手直しで完成)。

・事例②【定型作業・タスク管理(ブリーフィングノート)】:毎朝7時および日中指定時刻に自動起動。カレンダー・タスク一覧・作業ログ・健康データ・セキュリティログを横断集計し、当日のスケジュール、面談事前メモ、優先タスク、1日の総括をまとめた個人ダッシュボードを自動生成。

・事例③【情報収集・メモの整理(クリッピング&AI分析)】:Web記事や論文をChrome拡張機能で1クリック保存し、AIに分析を指示すると、自分のメモリ(目標・方針等)と突き合わせて、単なる要約ではなく「具体的に取るべきアクション」などを抽出してメールで通知。

5. 段階的導入ステップ(初級・中級・上級)

・初級【課金&エージェントの利用】:有料プランを契約し、作業を完遂するエージェントツール(Codex、Claude Code、Antigravity等)を利用して「AIに作業を任せる感覚」を掴む。

・中級【スキルを作る・使う/コンテキストを整理/AIエージェントパッケージ導入】:繰り返す作業を「今の作業をスキルにして」とAIに命じて自動登録(眞本氏は120超のスキルを登録)。コンテキストはAIが読みやすいローカルのMarkdown(.md)形式で整理・蓄積。既存パッケージ(Hermes Agent、Grok Bot、Dots)の活用も選択肢。

・上級【自分で仕組みを作る】:特定サービスに依存・拘束されないよう、自身のローカルPC上に設定ファイル・案内マップ・メモリ・スキル群を統合設計し、ベンダーロックインを回避した自立的AIエージェント環境を運用。

6. AI時代の働き方・人間性と中小企業診断士の価値

・事務作業からの解放と時間の再定義:AI自動化により事務作業時間が劇的に縮小。生まれた時間を作業の詰め込みではなく、本質的な思考、健康維持(ウォーキング等)、サウナ、対人対話に活用。

・スマイルカーブと「人間の役割」:業務プロセス中間の「作業」はAIとの協業・委任が進む。差がつくのは上流の「企画・構想・抽象度の高い課題設定」および下流の「AI成果物に対する適否判断・意思決定」。

・伴走型コンサルティングへの進化:単なる知識提供(知識差の切り売り)の価値は低下する。事業者と同じ目線で手を動かし、課題解決をともに歩む姿勢(伴走支援)が不可欠。