活動報告:2025年8月度定例会

政策研究会202508定例会記録

 

開催日  2025年8月24日(日)15:00~17:00 

テーマ  『エフェクチュエーション入門』

発表者  中郡 久雄会員 

 

 

 

講演要約:『エフェクチュエーション入門』―不確実な未来を創造する起業家の思考法

【結論】

本講演では、熟達した起業家が用いる思考様式「エフェクチュエーション」について解説された。これは、予測不可能な現代において、目的から逆算する伝統的な経営学(コーゼーション)とは対照的に、手持ちの資源から出発し、コントロール可能な要素に集中して未来を創造していく実践的なアプローチである 。その成功は天才的な閃きによるものではなく、学習可能な思考プロセスであり、中小企業診断士が新規事業支援などを行う上で極めて有効なフレームワークとなる 。

 

【理由:なぜエフェクチュエーションが有効か】

従来の予測に基づくアプローチは、今日の不確実性の高い時代において限界を迎えている 。かつてビジネスウィーク誌が「日本車は成功しない」と予測したにもかかわらず、トヨタが市場を席巻したように、専門家による未来予測でさえ容易に外れる 。

エフェクチュエーションは、このような予測不可能な状況を前提とし、計画の達成ではなく「望ましい結果の創出」に主眼を置く 。このアプローチは、サラス・サラスバシー氏の研究により、経験豊富な起業家たちに共通する思考パターンとして発見されたものであり、理論的にも裏付けられている 。

 

【思考の核となる5つの原則と具体例】

エフェクチュエーションは、以下の5つの原則から構成される。

 

手中の鳥の原則(Bird-in-Hand Principle)

「何をしたいか」からではなく、「自分は何者で、何を知り、誰を知っているか」という手持ちの手段から行動を開始する 。例えば、電卓メーカーが余剰の液晶技術という「手持ちの資源」からゲームボーイを開発したのが典型例である 。

 

許容可能な損失の原則(Affordable Loss Principle)

期待リターンの最大化を目指すのではなく、「どこまでなら失敗しても許せるか」という損失許容度を基準に意思決定を行う 。これにより、失敗しても再起不能になるリスクを避け、挑戦を継続できる。

 

クレイジーキルトの原則(Crazy Quilt Principle)

競合相手とも協力関係を築くなど、関与者と柔軟なパートナーシップを構築する 。異なる柄の布を縫い合わせるパッチワークのように、多様な関係者と協力し、共に新たな目的や事業を形作っていく 。

 

レモネードの原則(Lemonade Principle)

予期せぬ偶然や失敗を、新たな機会として捉え直す(リフレーミング) 。強力な接着剤の開発に失敗した結果、貼って剥がせる「ポストイット」が生まれたように、偶然をテコにして価値を創造する 。

 

飛行機のパイロットの原則(Pilot-in-the-Plane Principle)

未来は予測するものではなく、自ら創り出すものと捉える 。コントロール不可能な外部環境に固執せず、自らの行動などコントロール可能な要素に集中し、主体的に未来を操縦していく姿勢を重視する 。

 

これらの原則は、不確実な状況下で一歩を踏み出し、周囲を巻き込みながら価値を創造するための具体的な行動指針を示している。