活動報告:2020年10月度定例会

10月度定例会は、「無料でできる!技術動向調査 ~特許から探る中小企業の技術売り込み戦略~」というテーマで、小野 貴久会員、および、知財情報コンサルタントの野崎 篤志講師にご講演いただきました。今回の定例会も新型コロナウイルスの影響でZOOMでの開催となりましたが、多くの会員が参加し盛況となりました。

野崎講師は、株式会社イーパテント代表取締役社長で、知財業界では著名な方であり、本の執筆やYouTube配信を通じて、特許の検索・調査および特許分析等のノウハウを発信されております。

今回の講演では、特許情報を活用して、顧客がもつ技術を把握し、その技術はどんな用途に活用できるか、そして顧客がどのような会社と協業できるか等を調査する方法を教えていただきました。無料で活用できる有用な手法をライブで披露して頂き、非常に有意義な講演でした。

■はじめに

まずは、小野会員より、技術動向調査の題材となる架空事例の紹介(余裕資金がないが、画期的な技術をもっており、新商品開発・受託先開拓を実現し下請け体質脱却を目指したい会社)がありました。

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そして、

  • 戦略的基盤技術高度化支援事業
  • 知的財産の基本知識
  • 大企業との協業リスク
  • 契約関連(秘密保持契約・共同研究契約等)

等の説明をいただきました。その中で、具体的な技術・ノウハウの開示やトライアル等が行われる場合には、秘密保持契約だけではなく、状況に応じた共同開発契約書、開発委託契約書、製造委託契約書等の締結が重要なこと、また、各契約書を締結する場合の注意点の説明もいただきました。以下のような有用な情報の紹介もありました。

  • 中小企業経営者のための知的財産マニュアル(東京都知的財産総合センター)
  • 製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書
  • 知的財産取引検討会(第4回)配布資料

後半は、野崎先生による「この技術はどんな用途に使えるのか、協業企業はどうやって探したらよいのか」、特許情報の活用の説明です。

■特許の検索・分析の前に

まずは、様々な情報源のある中、特許情報から分かることについての説明をいただきました。特許情報は権利情報だけでなく、技術情報及び経営情報などの情報も把握できるとのことで、中小企業診断士として知っておいて損はないスキルかと思いました。

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また、特許の検索・分析の前に、分析テーマの技術情報や周辺動向(マーケット情報)を最初に収集することも有益とのことで、以下のようなサイトを紹介いただきました。

技術情報

 CiNii (https://ci.nii.ac.jp/

 J-Stage (https://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja/

 GoogleScholar (https://scholar.google.com/)

マーケット情報

 官公庁の資料の検索(google検索tips として、「site:go.jp」、「filetype:pdf」の利用)

 官公庁や様々な機関からの無料情報(Keizaireport.com [http://www3.keizaireport.com/])

そして、特許情報の検索・分析に入ります。まずは、技術をキーワードに、関連しそうな特許の集合(母集団)を作り、そこから統計解析をして、どのような会社が、どの分野で、どのような用途でその技術を活用しているかを調査していきます。このとき、母集団が重要で、よい母集団を作成できていないと、その後、よい分析をしてもよい結果が得られないことを説明いただきました。母集団の指標として、適合率(精度)と再現率があり、それらの指標について、アメリカ海軍の話や魚釣りの話等の例えでわかりやすく説明をいただきました。この母集団の話は、特許情報の分析だけでなく、アンケート調査など、様々な統計分析でもあてはまるため、押さえておくべき情報かと思います。

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■J-PlatPatを利用した、特許情報の検索・分析について

いよいよ、実際に、J-PlatPat(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)を利用した特許情報の検索・分析です。

ここからは、実際にライブで「抗菌」をキーワードに、検索・分析していきます。最初に

  • 検索キーワードから、キーワードに関連した同義語を調査
  • 関連のありそうな特許の技術分類(FI)を選定

を行い、キーワード(および同義語)と特許の技術分類(FI)から、母集団を作成します。さらに、出願日の日付指定で、期間(今回は直近10年間)で母集団を絞っていきます。ここからエクセルに出力するのですが、CSV出力は件数制限があるとのことで、ページを範囲指定コピーしてエクセルに貼り付け(貼り付けオプションで貼り付け先の書式に合わせる)するというtipsをいただきました。その後、出願年とFIの値でテーブルを作成し、ピボットテーブルを利用して分析していきました。

まずは、縦軸を会社名、横軸を出願年として、直近出願しているかのアクティビティの推移を表示させます。そのとき、条件付き書式のカラースケールを利用して、視覚的に見やすくしていきます。

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さらに、縦軸を会社名、横軸をFIの値として、どの会社がどの技術分野で特許出願しているかを把握していきます。ここから、特許出願件数の推移や、どの会社がアクティブに特許出願をしているか、どういった分野で活用しているか等を分析して、協業先となりそうな会社を絞っていきました。

絞られたデータから、適合しそうな会社を見つけ出すためには、分析テーマに関する技術情報やマーケット情報に対する知見も重要になってきます。野崎講師が次々と「抗菌」に関連した技術や会社をピックアップするライブ感は大変興味深いものでした。

■テキストマイニング

株式会社ユーザーローカルが運営しているサイト(https://textmining.userlocal.jp/)を紹介いただきました。ここでは、テキストマイニングの技術を使ってキーワード同士の関係性やキーワードの出現率の解析が行えます。今回は、先ほどの母集団での「発明の名称」のキーワードをすべて入力してテキストマイニングしてみました。また、

  • 名詞だけで抽出する 
    → みやすくなり、想定していないキーワードを抽出できる
  • 「2つの文章も比較」を利用し、前半5年 と 後半5年の「発明の名称」のキーワード比較する
    → 直近で出現しているキーワードの傾向がわかる

等のノウハウを説明いただきました。

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■質疑応答

「特許の件数だと、大企業の出願が目立ってしまうが、ベンチャーやスタートアップの企業を探し出すとしたらどうしたらよいか」という小野会員からの質問がありました。ベンチャーやスタートアップの企業の抽出は難しいので、

  1. 前半に説明いただいたマーケットレポート分析等を最初に行い、注目ベンチャーの情報をあらかじめ集めておく。
  2. ベンチャーやスタートアップの会社の特許数は直近の比率が高くなる傾向があるため、期間全体の特許数と直近数年間の特許数の比率をとる(例えば2018年以降の特許数 の比率が過去10年分の特許数と比較してどれくらいかの比率か等)。

等、普段から実践しているからこそ即答できるノウハウを提供いただきました。

■まとめ

今回の講演では、無料でできる技術動向調査・分析手法のノウハウを説明いただきました。今回の講演だけですぐに特許の技術動向調査・分析ができることは難しいかと思いますが、分析の手法、分析結果の可視化の考え方、結果から提言の導き方等を、サイト情報やエクセルの使い方だけでなく、考え方も交えて説明していただきましたので、特許調査・分析の感触はつかめたかと思います。

今回の講義で興味をもった方は、上記参考資料や野崎講師のYouTube動画を視聴することで、さらに深く知識を得ることができると思います。 説明していただいた様々なサイトやエクセルの使い方は、特許調査・分析だけでなく、各自の様々な業務に活用できる応用範囲の広い内容かと思います。短い時間でしたが、多くの刺激を得られたご講演となりました。

以上。