2016年9月度定例会の風景

2016年9月度の定例会についてご報告致します。

9月度定例会は中小企業政策研究会の仲田俊一会員の企画として、日本唯一の水族館プロデューサーとして活躍される中村元氏を講師に迎え、

「弱者の集客方法」
超貧乏で超田舎の弱点だらけの水族館の年間集客数が15倍(30万人)に!

と題して講演を行っていただきました。

1) 常識を外して奇跡の集客
201609定例会画像01今でこそ水族館は大人のデートスポットとして認知されていますが、昔は子供をメインターゲットにしていました。それは子供が親を連れて来る事で集客に結び付くと考えられていたからです。しかし、子供が見たいのは、絵本に出てくる、象・キリン・ライオンであり、動物園に親を連れて来ても水族館へ誘う動機づけは持っていません。また、人口の1割に満たない小学校低学年以下の層は魅力が乏しいターゲットです。
常識を外し、1990年以降鳥羽水族館の副館長として「デートに使える水族館」を企画してから、多くの水族館のデートスポットへ変わっていきました。

 

2) コミュニティに着目する
身体障がい者は人口の3%程ですが、これは多いでしょうか?少ないでしょうか?
昔、養護学校に隔離されていた障がい者が、現在は健常者と席を並べて教育を受ける社会へと変わりつつあります。旅館業では、学年に1人の車いすの生徒がいる事で修学旅行に選定されず、バリアフリー対応していない古い旅館がどんどんと廃業しています。障がい者を、健常者を含む一つのコミュニティとして着目した時に、マーケットの大きさは違いますし、時代によってマーケットは変化していくものです。

3) ターゲットを絞る
デートに使える水族館は、若いカップルしか来ないわけではありません。オシャレで清涼感のある水族館は女性や子育てが終わった夫婦も呼び込みます。バリアフリー対応は障がい者だけではなく、足の弱い後期高齢者(75歳以上)を含む高齢者のコミュニティをひきつけます。ターゲットを絞る事により周辺の需要を呼び込むことにつながります。

4) 弱点を利用して進化する
201609定例会画像02サンシャイン博物館は、海から離れ、水が使いづらいビルの屋上にあります。そうした弱点を利用して「天空のオアシス」とコンセプトを定める事で、緑に囲まれ、(海まで行かなくても利用できる)代替的な場所(都会の「オアシス」)として大人が魅かれる場所に捉え直しました。結果として当初、年間目標110万人でしたが224万人を集客しました。
「北の大地水族館」も、遠い・寒い・お金がない・展示できるのがシャケ・マスだけという弱点だらけの水族館でした。この中に滝つぼを設置し、外には穴を掘りました。滝つぼの下を泳ぐ魚は見られませんし、冬になると凍った湖の下で生きる魚も観察できません。通常どこでも見られる川魚を、特に人が来ない冬にここでしか見られない展示をする事で年間集客数を2万人から30万人に引き上げることに成功しました。

講演では以上のようなお話をしていただきました。
講演後のQ&Aでは、組織の中でスポイル(*1)されている人間を生かすことの重要性や、外から来た人間だからこそ見える視点があるという事を語っていただきました。

「3) ターゲットを絞る」は経営理論の教科書では語られることですが、集客につながっていく過程を実例として語られた処が非常に興味深い点でした。また、弱点だらけの中小企業を支援する時に、弱点をどうとらえ直すかがいかに重要なのかを確認させていただきました。今回の定例会は、生粋のマーケッターとしてのお話を伺える、非常に貴重な機会となりました。

(*1)ここでは、「(傍流に置かれて)ダメになっている、やる気をなくしている」の意味

以上

201609定例会画像03中村 元(なかむら はじめ)
水族館プロデューサー 日本バリアフリー観光推進機構理事長
独特のマーケティング手法で サンシャイン水族館:美ら海水族館につぐ年間224万人を集客。 北の大地の水族館:超貧乏、超田舎、極小、酷寒、スター不在で、集客15倍年間30万人にする…など、数々の水族館のリニューアルを成功させる。また、活動は水族館に留まらず、自治体の施策に協力する形でバリアフリー観光を推進し、廃業寸前の旅館を集客20倍にするなどの実績を持つ。